The game is afoot. その3 (399)

この表現については、これまで
387 The game is afoot. (07.07.19)
391 The game is afoot. その2 (07.07.26)
において論じてきた。その後、或るイギリスの文筆家の見解が得られたので紹介する。

1)Henry Ⅳ, Part 1での
Hotspur: I smell it.
Upon my life it will do wondrous well.
Earl of Northumberland: Before the game is afoot thou still lett’st slip.
ホッパー:なるほど、読めました。きっと成功しますとも!
ノサンバランド:どうもお前は、獲物も出ないうちから、犬を放す癖がある。
       (中野好夫訳)

について。この訳、この解釈でよい。game の文字通りの意味は「獲物」である。狩猟での表現をイディオムとして用いた。文脈上の意味は occasion 「(掴むべき、そしてタイミングをあやまると失ってしまう)機会」である。
(なお中野好夫氏の訳は「シェイクスピア全集4、史劇Ⅰ」(筑摩書房)から引用した。)

2)シャーロック・ホームズ作品での

“Come, Watson! The game is afoot.” 

について。ここでは、the game がダブル・ミーニングになっていて、一つは「サッカーの試合」であり、もう一つは、the intellectual “sport” of solving a “mystery”である。
ちなみに、サッカーはイギリスで、ホームズの時代にすでに、人気のあるスポーツになっていた。

3)Young Sherlock Holmes

Holmes had to discover the trophy’s secret hiding place within sixty minutes. Holmes accepted the challenge and with a confident glance at Elizabeth, cried, “The game is afoot.”

について。ここでは、単に「(隠されたトロフィを時間内に探す)ゲーム」が意味されている。
このイギリス人の解釈がが正しいとして、次のことがいえる。

イ) 2)と3)では、「さあ、ゲームの始まりだ!」などの訳が、原文の意味に忠実である。

ロ) 2)で、(すでに「391」でも述べたように)文脈が合えば、
「獲物が動き出したぞ」
なども「面白い訳」とはいえる。

ハ) 2)で、
「さあ、ゲームの始まりだ!」
とすれば、シェイクスピアのエコーが無くなるが、
「獲物が動き出したぞ」
とすると、より強い「サッカー」のダブル・ミーニングが伝わらない。

僕は、「391」で、

「ゲーム/試合」という意味の方が状況には合っている。それで、「387」では、
「ゲーム進行!」とした。

と説明し、更に、

ホームズ物の定訳「獲物が動きだしたぞ!」に合わせるか、「獲物は定まった。しとめてやるぞ」/「さあ、獲物を探すのだ」などと中間的な訳にするのが、翻訳としては賢いのかも知れない。

と述べた。それは今でも変らないが、ホームズ作品における、文脈上の意味が何なのかは、さらに検討を要する。わが家の書庫に、現在、Sherlock Holmes の作品が無い。元勤務先の大学の図書館に行けば借りられるが、この暑さでは億劫である。9月か10月になればHolmes を何冊か読んで、この問題を再考したい。
なお、このブログでも、かねがね述べているように、解釈(原文における意味の把握)と翻訳は、常に平行しながらも、区別して考えなければならない。その行動方針は、この問題の検討においても尊重されなければならないだろう。

この記事へのコメント

2007年08月10日 17:49
先日コメントした子守男です。私のブログで今回のエントリを教えてくださいましてありがとうございました。興味深く拝読いたしました。

"The game is afoot." について自分で分析できる英語力や文学的知識は持ち合わせていませんので、先日書いたものはもちろん何かで読んだものの受け売りです。すでに手元にないので、誰のどんな文章だったかはっきりしないのですが(筆者は日本人でした)、ひとつの見方として、記憶を頼りにもう少し書いてみますと、
●その筆者が複数のイギリス人に訪ねたところ、セリフの解釈は人によっていくつかに分かれた。シェークスピアの原典の意味を知っている人もいたが、他方、単に「ゲームの始まり」のようにとらえている人も目立った。
●時代背景やホームズの古典の引用癖もあわせて考えれば、日本語としては、シェークスピアが原典であることを示す「獲物が飛び出した」が適切であろう、というのが筆者の意見。
(続く)
2007年08月10日 17:50

確かこんな内容だったと思います。これを読んで私も素直に「なるほど」と思ったわけですが、もちろん「獲物が…」でなければ誤訳だ、とは思いませんし、むしろダブル・ミーニングととらえるのが自然なのでしょう。今出版されている翻訳も、みな「獲物が…」となっているわけではなく、翻訳者によって異なっています。

なお、ホームズはボクシングや日本の「バリツ」など、格闘技に秀でており、その描写もありますが、私の記憶では団体競技に関する言及は全編で非常に少なかったはずです。むしろ、「自分は団体競技には興味がない」というようなセリフが確かあったような記憶もありますが、うろ覚えです(ヒマをみて全文検索をしてみようかと思います)。だからといって、「ホームズ人気スポーツのサッカーにかけた言葉を言うはずはない」ということにはなりませんが、参考までに書いてみました。
(続く)
2007年08月10日 17:52
さて、ホームズで問題にされるセリフといえば、第1作の "A Study in Scarlet" で、ワトソンが初対面のホームズに言う "I keep a bull pup." が頭に浮かびます。「ブルドッグの子犬」に言及があるのは全編でここだけで、英語で出ている原典の注解や「ホームズ本」を読んでも、「a bull pup はどの後どうなったか不明」などと書かれています。が、この表現はヴィクトリア朝時代「かんしゃくもち」を意味した、という説明を最近見つけました。これが本当だとしたら、100年もしないうちに意味がすたれる場合もあるということで、言葉の変遷とは面白いものだと思います。

また、第1作のタイトルの study が何を指すかについても論争があり、自分のブログで取り上げたこともあります。よろしければご覧ください。michio さんのご意見・ご解説を賜ることができましたらうれしいです。

「緋色の研究」(あるいは「習作」)のこと
http://english-sea.at.webry.info/200706/article_21.html

長文になり失礼しました。
kumiko
2011年04月21日 14:57
はじめまして。The game is afoot の意味を探してたどり着きました。とても参考になりました。勝手ながら私のブログにこちらの記事(その1、その2も)をリンクさせていただいたので足跡を残します。最近更新されていらっしゃらないようですが、興味深い記事がたくさんありますので、ちょくちょくお邪魔します。
ありがとうございました。
2011年04月22日 07:30
kumiko さん。さしつかえなければ、あなたのブログが読めるようにブログ名かURLを教えてください。