前置詞 on の一用法(170)

江戸時代の川柳に

唐紙へ母の異見をたてつける

というのがある。「唐紙(からかみ)」は襖。母親から「お前、また悪い友達と遊んでるんじゃないか。おやめよ」などと説教されたのを「うるさい!」と、襖をぴしゃりと閉めて出ていく情景。異見は意見の別表記。「たてつける」は襖・障子・扉などを閉めること。そういえば「たてつけが悪い」といいますね。単に出て行くのでなく、襖を相手の鼻先でぴしゃりと閉める、閉められる時の感じが上の川柳ではポイントになっている。(ただし文字通り「鼻先」でなくて、閉められる方は、部屋の中ほどに座っているのでもよい。感じがそうであるということ。)
Raymond Chandler, The Little Sister に次の例がある。
私立探偵のPhilip Marlowe の事務所に若い女が事件の依頼に来る。態度に素直さが無いので、マーロウがいう。

“I hung up on you, but you came up here all the same. So you need help. What’s your name and trouble?”

来る前に電話をしてきていた。その電話も、必要以上に用心深い、失敬な口の聞き方であったので、マーロウは「よそで頼みな!」とピシャリと切っていた。
I hung up on you は、「君と電話をしていて、まだ君が切っていないのに、こっちからピシャッと切った」という意味。on が、「~と直面していて」というニュアンスを加えている。
これを応用して、前掲の川柳の情景を説明的にいうと、

The mother was giving her son a lesson about his conducts, but he did not like it. He banged the door on her and went out.

bang は「バシンと音を立てて閉める」という感じ。

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