SIGN の意味(2)(605)

ぐうたらぅさんは、同じ作品の中での、別の sign の使用例を挙げておられる。

1)サディアス・ショルダーが、父の屋敷へ侵入者があったことを語っている。
“We searched the garden that night but found no sign of the intruder save that just under the window a single foot-mark was visible in the flower-bed.”
私たちはその夜庭を探しましたが、侵入者の痕跡としては、窓の下の花壇に付いた足跡一個のほかは何も見つかりませんでした。

single というのは、足跡が文字通り一個(片足分)だけであったと強調している。

2)ホームズは、侵入者の臭跡を犬に追跡させる。

With lolling tongue and blinking eyes Toby stood upon the cask, looking from one to the other of us for some sign of appreciation.
トビーは舌を垂らしまばたきをしながら樽の上に立ち、我々の顔を見比べて「よしよし」という合図をしてくれるのを待った。

この sign は、一応合図と訳したが、特定の合図でなく、うんうんと頷いたり、笑顔を示すだけであってもよい。とにかく、犬は、自分が期待されている任務を果たしたことを認める反応を人間に求めたのである。

ここで、sign という語の意味を定義しておこう。sign とは、人間が知覚できるモノ・コトであり、それでそれ以外のモノ・コトを指示するものである。dog という語を使うと、その場に犬がいなくても、自分が何に言及しているかを他の人に伝えることができる。野球の捕手はいわゆるサインを使う。股間で一本指を伸ばすと、投手に、例えば「直球」を投げろというメッセージが伝えられる。
駅や空港で、i というマークがあれば、それは「案内所」であり、男子用トイレ・女子用トイレのありかも、特有のマークで知ることができる。相手のぶっきらぼうな返事や仏頂面から、その人の機嫌を察することができる。これら皆、上の定義にあてはまるので、sign 「記号」といえる。記号とその指示物(指示されるもの)の組み合わせについての約束をコードという。我々は生活のあらゆる局面でこのような記号に取り囲まれている。それらを総合的統一的に取り扱うのが記号学(論)である。
1)の「足跡」も、2)の「合図」も立派な signである。

ぐうたらぅさんは、
3)メアリーが、財宝の半分が自分のものになるということを聞いても、「財宝に興味がなさそうな」 sign をワトソンが見てとった、という例もあげられていたが、その原文が僕には見つからなかった。メアリーが「すごい!」と手を打ったり、喜色満面になったりすれば、それは財宝に興味があるという彼女の気持ちを示すsign であるし、クールな表情は「興味がない」心理の signである。
なお、sign に、こう訳しておけばいつでも間違いがないという訳語は無いので、文脈に応じて訳すことが、学習者の側に必要である。
the sign of the four に対しては、「しるし」、上記の1)では「痕跡」、2)では「合図」と訳した。そして3)は「様子」「表情」と訳せるであろう。それぞれもっと適当な訳語があるかも知れない。いつも、このブログで書いているように、文脈における「意味」が分かることが大切なので、必要が無ければ訳さなくてもよい。それぞれの単語の原義、基本的意義を把握していれば、大抵の解釈は間に合うはずである。
また、この意味が存在する時にはいつも sign という語を使うというわけではなく、他の同義語が使われることもあるし、また、
There was no eagerness in her voice.
のようにセンテンス単位で同じ意味を表現してもいいわけである。

sign は適応範囲の広い語であるが、日常言語において、sign というとすぐに思い浮かべるものは何かというとやはり特定性がある。その第一が、文字とはいえないが、それに準じるような、そして、絵・図というよりはシンプルな図象的な記号である。
矢印、ハートのマーク、疑問符、Vサイン、〒、などなど。例の4人組の記号は、基本的定義からしても、まず思い浮かべる意味という点でも立派な signである。それであるから、the sign of the four というフレーズにおいては、英語話者は、第一に「しるし」という意味を受け取るのである。

この記事へのコメント

ぐうたらぅ
2010年09月14日 21:43
ご説明ありがとうございました。

メアリーが「財宝に興味がなさそうな」の件は、"The Sign of Four"第9章の
"It sent a little thrill of joy to my heart to notice that she showed no sign of elation at the prospect."
を示したかったのですが、私のコメントがかなり不正確な表現ですみませんでした。

"The Sign of Four"の件については、前にコメントしたときには、私は英語話者は「図形的なしるし」とは違う意味を想像する可能性があるのではないか、と思っていました。ただ、コメントしたあとで"~ of the four"ならそういう可能性もあるかもしれないけれど、"~ of four"だとそういう可能性はなさそうな気がしてきたのですが、どちらでも英語話者は「図形的なしるし」として理解できるなら、全然関係ないですね。

私の疑問におつき合いくださいましてありがとうございました。