SIGN の意味(1)(604)

シャーロック・ホームズの The Sign of Four という題名についての記事「The Sign of Four 」(210)について、ぐうたらぅさんからコメントが寄せられた。sign という語の意味についての検討であるので、興味のある方は、まず、上記記事、そのコメントおよび、ぐうたらぅさんのブログの関係記事を読んでいただきたい。

ぐうたらぅさんとの間に解釈の違いがあるわけでないし、前記事に修正の要があるわけでないないのだが、この機会に、もう少し説明しておく。
この物語は、イギリスがインドを統治していた時代に、4人の男(イギリス人1人、インド人3人)が、悪事を働いて財宝を得た。しかし、一旦隠していた財宝を2人のイギリス人に横取りされた。横取りした一人ジョン・ショルトーは財宝をイギリスに持ち帰った。横取り組のもう一人モースタン大尉は遅れて帰国し、自分の分け前をショルトーに要求する。いさかいをしている内に、モースタンは心臓発作で死ぬ。その後、ショルトーも死に、現在、財宝は、ショルトーの息子バーソロミューが所有している。もう一人の息子であるサディアスは、モースタン大尉の遺児であるメアリーに同情し、遺産の一部を分けてやるようにバーソロミューを説得する。一方、横取りをされたジョナサン・スモールもイギリスに帰り、バーソロミューの屋敷に入り、財宝の入った箱を奪う。
メアリーは、父の持っていた紙切れをホームズに見せる。

In the left-hand corner is a curious hieroglyphic like four crosses in a line with their arms touching. Beside it is written, in very rough and coarse characters. “The sign of the four -- Jonathan Small, Mahomet Singh, Abdullah Khan, Dost Akbar -- .”  
(紙面の)左手に奇妙な楔形文字のように4個の十字が横に並び、それぞれの横棒はつながっていた。その傍にぞんざいな字で「四人の仲間のしるし――ジョナサン・スモール、マホメット・シン、アブドゥラ・カーン、ドスト・アクバール――」と書かれていた。

このように The sign of the four と、four に the が付いている。これによって the four は4人の成員からなるグループという意味が生じる。定冠詞によってメンバーが統合されるのであって、the Hanshin Tigers, the United States of America などというのと同じである。the four の後ろには men, women, comrades, friends, players などの語が含意される。
十字を4個連ねた形が四人の同志の統合のしるしであると説明しているのである。そして、その the four のメンバーは誰々と明らかにしている。sign は「記号、しるし、マーク」といった意味であり「署名」ではない。列記された4つの名前は the four の同格(具体的展開)であって、sign と修飾あるいは同格の形でつながっているのではない。この4人の名前は、最初は4人が自著したらしいので、その時点では four signatures といえるが、後には、スモールが一人で書いたので、自著を基本とする signature とはいいにくい。現地にいる3人に代わって代理で署名したといえなくはないが、いずれにせよ、sign は「署名」の意味にはなりえず、上の文の中では、十字を連ねた例の記号を受けている。
この the sign of the four は、作品に何度か表れるが、第12章で、ジョナサン・スモールの言葉

It’s been the sign of four with us always.
4のしるしはいつもわれわれと共にあったんだ。

では、four の前に the が無い。
1.単なる脱落
2.語りなので、the が脱落した
のでなければ、the sign of four は、「4のしるし」といった意味になる。読者からすると、the sign of the four の方が分かりやすい。アガサ・クリスティのThe ABC Murders でA、B、C・・・が人名のイニシアルでもあり、地名のイニシアルでもあったように、four だけだと、4は人数だけでなく、「4番目」「4日」「4時」「4章」「四角」など、いろんなことを暗示するからである。
そして、この冠詞のない形がタイトルにもなっている。
訳者の延原謙氏は
「探偵小説にあっては、題名のつけかたも作者の苦心するところで、題名をみて内容のわかるようなのはむろん困るし、そうかといってまるで無関係な題もつけられない。そこでまあおや何だろう?と読者の好奇心なり探索欲なりを刺激するような題を選ぶことになるのであろう。」
と「解説」で述べている。コナン・ドイルが意図して the を取ったとしたら、そういう理由であったのかも知れない。
訳書のタイトルにおいても同じ必要があるのだろう。僕としては、もともと訳書名の適不適を論じようとしたのでなく、英語の sign の意味、signature との違いについて、英語学習者に注意を促しただけである。
作品中、sign の他の使用例については、次記事(明日の予定)で述べる。

この記事へのコメント

ぐうたらぅ
2010年09月13日 15:07
こんにちは。The Sign of Fourの件、早速取り上げていただき、ありがとうございます。次の記事も楽しみにしています。