一人口・二人口(016)
「一人口は食えなくても、二人口は食える」とは、収入が少ないからと結婚を躊躇している男に、結婚すれば、妻がちゃんと切り盛りして何とかやって行くから大丈夫と、仲介者がすすめる言葉。この頃は聞かなくなった。今なら「二人で共稼ぎしたら何とかなる」と云うのだろう。
鴎外の『雁』(The Wild Geese)で、娘一人を育てた男やもめの述懐。
一人口は食えなくても二人口は食えるなどと云って、小金を持った後家さんの所へ、入り婿に世話をしよう、子供は里にでも遣ってしまえと、親切に云ってくれた人もあったが、わたしはお玉が可哀さに、そっけもなくことわった。
この英訳
“One of my friends kept repeating the old proverb: “When a single man can’t live, two can.” Then he said he knew a widow who was looking for a husband. And he’d recommend me. Oh, she had money too! But I would have had to give my child away to someone else. How could I? I refused the offer flat.”
The Wild Geese (Tr. by Kingo Ochiai and Sanford Goldstein), Tuttle.
世の東西を問わず、似たような事を云うらしい。次のモームの小説では、妻との結婚生活が経済的に苦しい夫が云う。
“They say it doesn’t cost any more to keep two than one, well, that’s not my experience so far.”
Somerset Maugham, “The Kite”
なお、原文の「一人口、二人口」云々ということと、再婚の相手が「小金がある」というのはややちぐはぐな感じがする。小金も何も無くても、なんとかなるというのが、この言い種の意味なのだ。その点、英訳で「小金」を後ろに回して、Oh と付け加えるようにいったようにしたのは、その方が自然に理解できるからであろう。いっそのこと、このセンテンス (Oh, she had money too!”) は省略してもよいのではないか。
それから、「里にやる」を give my child away と訳すと「養子にやってしまう」(当方と縁を切る)という意味に感じられる。そういう場合もあっただろうが、そうではなく、「乳を飲ませて育ててくれる先を見つける」という意味で、養育費を払い続け、いずれは引き取るという場合もある。そういう解釈では、訳文は次のようになる。「里」は「地方、田舎」の意味。省略してもいいだろう。
“There was a kind person who advised me to marry again. He quoted the saying: “It doesn’t cost any more to keep two than one.” He said he knew a widow who was looking for a husband. He would recommend me. But, in that case, I would have to find someone else who would bring up my baby. How could I? I refused the offer flat.”
つぎはぎで、あまりうまい英訳ではないが、このようにいろいろ考えて英訳をしてみることが、いい勉強になるのである。
鴎外の『雁』(The Wild Geese)で、娘一人を育てた男やもめの述懐。
一人口は食えなくても二人口は食えるなどと云って、小金を持った後家さんの所へ、入り婿に世話をしよう、子供は里にでも遣ってしまえと、親切に云ってくれた人もあったが、わたしはお玉が可哀さに、そっけもなくことわった。
この英訳
“One of my friends kept repeating the old proverb: “When a single man can’t live, two can.” Then he said he knew a widow who was looking for a husband. And he’d recommend me. Oh, she had money too! But I would have had to give my child away to someone else. How could I? I refused the offer flat.”
The Wild Geese (Tr. by Kingo Ochiai and Sanford Goldstein), Tuttle.
世の東西を問わず、似たような事を云うらしい。次のモームの小説では、妻との結婚生活が経済的に苦しい夫が云う。
“They say it doesn’t cost any more to keep two than one, well, that’s not my experience so far.”
Somerset Maugham, “The Kite”
なお、原文の「一人口、二人口」云々ということと、再婚の相手が「小金がある」というのはややちぐはぐな感じがする。小金も何も無くても、なんとかなるというのが、この言い種の意味なのだ。その点、英訳で「小金」を後ろに回して、Oh と付け加えるようにいったようにしたのは、その方が自然に理解できるからであろう。いっそのこと、このセンテンス (Oh, she had money too!”) は省略してもよいのではないか。
それから、「里にやる」を give my child away と訳すと「養子にやってしまう」(当方と縁を切る)という意味に感じられる。そういう場合もあっただろうが、そうではなく、「乳を飲ませて育ててくれる先を見つける」という意味で、養育費を払い続け、いずれは引き取るという場合もある。そういう解釈では、訳文は次のようになる。「里」は「地方、田舎」の意味。省略してもいいだろう。
“There was a kind person who advised me to marry again. He quoted the saying: “It doesn’t cost any more to keep two than one.” He said he knew a widow who was looking for a husband. He would recommend me. But, in that case, I would have to find someone else who would bring up my baby. How could I? I refused the offer flat.”
つぎはぎで、あまりうまい英訳ではないが、このようにいろいろ考えて英訳をしてみることが、いい勉強になるのである。
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